銀河茶屋とハートランド人

るしあな市銀河茶屋はるしあなの人達が”シルバーナイツ”と呼ぶ一族が住んでゐる
歴史の教科書の多民族の項目には必ず
“シシル・ザ・シルバーナイトを頂点とする9人の騎士団”
と云ふ言葉が載つてゐることから彼等はさう呼ばれるが
昨今シルバーナイトを見た者は皆無に等しい
彼等は自分達のことを”ハートランド人”と云ふ
失はれた彼等の故郷の惑星ハートランドと彼等の独自の言語ハートランド語に由来する
彼等はるしあなの共通語とハートランド語の両方をチャンポンでしやべる
(この前シシル・アージェントと云ふ小娘が”たこにもたこにも”と云ふから
辞書で引いてみたら”いかにも”の誤訳だつた 烏賊と蛸の区別もつかないらしい)
銀河茶屋は一言で云ふと広大で何もない田舎だ 羊(彼等は”ムームー”と呼ぶ)だけが沢山居る
るしあなの人間は普通住みたがらない
さういふ田舎に彼等は好むか好まざるかは判然としないがひつそり住んでゐる
時計職人や楽器職人が多いと聞く 田舎が厭でるしあな市に出てくる者には
銀行員だとか公認会計士だとか働くのが好きな奴が多いと聞く

シルバーナイツと呼ばれる彼等であるが騎士はほとんど居ない
彼等が宇宙移民としてこの星に来たときにはシルバーナイトが居たのだらうか
それを知る術は無い
何の所以か彼等を好んで研究対象にする民俗学者も居るが
砂漠の中のありもしない一粒の砂金を求め続けるやうなことだ

そんなシルバーナイツのことを何故此処に書いたかと云ふと
小生(おれ)の仕事仲間であるコージ・アージェント
(小生はこいつのことを”メガネ”と呼んでゐる メガネをかけてゐるからだ)
がシルバーナイトの1人なのである
そして斯く云ふこの小生も色々あつた挙句ハートランド人でもないのに
栄誉ある(と彼等が云ふ)シルバーナイトの1人にされてしまつたのだ
(小生は逆に彼等から”土着の人”と呼ばれる)
別に便利でも不便でもないのでこのまゝにしてゐる どう呼ぼうが好きにすればいゝ

彼等と付き合つてよかつたことがひとつある
彼等は楽器の演奏や歌やダンスが実は大好きで
自宅や地元のパブで秘密裏にやつて大に盛上がつてゐるのだ
小生はかういつたものをるしあなの他の地域では見たことが無い
小さな子どもでも何かしら楽器がひとつふたつ出来る
メガネが云ふところでは(当てにはならないが)ハートランド人の血なんださうだ
小生は音楽が判らぬ 彼等がハートランド語で何を歌つてゐるかも興味が無い
ただ彼等の歌なり演奏なりは聴いてゐて心地が良い
彼等は親しくないものにはかういふ姿をあまり見せない
(シシル・アージェントみたいな目立ちたがりは時々広場でフィドルを弾いて小銭を稼いでゐる)
小生は親しくなつてしまつたので身内の集まりに入れるやうになつた
彼等は楽器もできずハートランド語を解さない小生には興味を持たないが
小生がパブの片隅で飯を食ひながら彼等の音楽に耳を傾けることには寛容である

コーディリア・那津目のある日の手記より抜粋

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