公衆自殺機【第2版】

【前書き】
2006年に公衆自殺機といふ短い文章を書きました
書いた当人は書いたら書き放しなのですが
検索で見に来られる方が未だに居られる
あまり変なものを書いたままにしておくのもなんだかなァ
と思ふ事数ヶ月
矢張りこのワードを検索される方には何かあるのだらうなァ
と思ふ事数ヶ月
第2版と称しまして
書き直しておきたい気がします
あの当時の気味の悪い文章がお好きな方は
今の文章が面白くないでせうから
前のやつをご覧になってください
元ネタは最早書くまでもありませんが
木城ゆきと『銃夢』(旧版)に出てくる公衆自殺機です
ちなみに玄関を出られて電話ボックスに入られても
何も起こりませんのでご留意ください

【其一】
 この国では公衆自殺機といふものが一般に普及しまして
人は自由にならない生を受けてしまったものの
その死については自分の自由とする事が出来るやうになりました
公衆自殺機は貴方が死を望んだ時に
貴方の生を可及的すみやかに苦しむ事無く終了する事が出来ます
与えられた生命を自ら手放す事に罪悪感を感じる方も
血を見るのが怖いといふ方も安心してご利用いただけます
貴方の思想や心情を考慮して 本意に沿った形での死が可能です
 それまで自殺といふものは何か特別なものでありましたが
死を自分の自由とすることが可能になったと思う事それ自体が
ある種の安定剤的な効果を発揮して
かつて年間4万人といわれてゐた自殺者数は大きく減少します
 公衆自殺機は自らの意志でこれ以上生命活動を継続する事が
耐え難い肉体的あるいは精神的苦痛を伴う場合にのみ作動します
いたずらや嫌がらせやいじめを目的にこれを使うことは許されません
非常に重い罰則をかけられる事になりますし
政府の履歴にその事が一生涯残ります
 公衆自殺機がその生を終了させる事を判断した場合
対象となる利用者は7枚の誓約書に自らの指でサインを行う必要があります
これがなされた後に利用者の生が可及的すみやかに終了します

【其二】
 こんな話があります
公衆自殺機を使って死んだ人はその後どうなるのか
この事は公には公開されてゐません
何故ならプライバシーに関わる問題であるからです
公衆自殺機を利用した故人は一般的に
事故死として扱われ
その死因が公衆自殺機によるものであることはおよそ判りません
ある人は云います
公衆自殺機はミキサーになってゐて
下水に流されてしまうと
またある人は冗談めいた口調で
公衆自殺機で死んだ人はソイレントになって
明日の食卓に並ぶのだと云います
中には公衆自殺機の中でなされる
7枚の書類へのサインは死後の遺体の処理についての
一切を政府公的機関に一任する許諾書であり
遺体は部位ごとに分けられて再生センターに送られ
移植用に使われると云う人もいます
 私どもの独自の調査によりますと
公衆自殺機は自殺をするための施設ではなく
政府が容易に人権のない人体を大量入手し
非人道的な処理を行いその自由意志を奪い
肉体が朽ちるまで延々生体プラントとして
日々体内で作られる様々な物質を
必要とする人々に安定供給するために
使ってゐるのだといふ告発文書めいたものを見つけましたが
政府に問い合わせた所
そのような非人道的な事を政府は認めてゐない
といふ見解を得ました
いずれも都市神話の域を出ないノイズのやうであります

【其三】
公衆自殺機の利用をした事があるといふ方に
インタビュをする事が出来ました
『一時は酷い状態で 何度も自殺を図りました
或日公衆自殺機に飛び込んだんです
さうして7枚の書類にサインをして意識がなくなりました
ああ自分は死んだのだと思いました
目が覚めた時 自分は病院のベッドで寝てゐました
交通事故に遭ったのだといいます
しばらくは身体を満足に動かす事が出来ませんでしたが
今ではこの通り 以前よりずっと調子がいいのです
まるで生き返ったやうな心地がします』
さういふ人たちを何人もインタビュするうちに
かふ云ふ声を多く耳にしました
「あの人は以前と全然違う まるで別人だ
見た目は同じなのに 全く違う人間になったやうだ
だけど前より今の方がいいわ」
政府は公衆自殺機を使った気になって
失神して病院に運ばれる人が多い事を公表しており
研究者の中にはこの臨死体験こそが
人の神経衰弱を劇的に快復させるのだと主張する方も居るやうです

【其四】
その日のニュースからは
そんなどうでもいい事が流れてゐた
私たちは心身共に健康で何一つ不完全な所など在りはしないのに
どうして自殺なんてくだらない事をする人が居るんだらう
ママに聞こうかと一瞬思ったけど私はやめた
ああいけない こんな事を考えてるのが判ったら
心身安定管理局に送られてしまう
私は大丈夫 みんなと同じ 何一つみんなと違うところはないし
何もおかしいなんて思わない
それが当たり前
『いってきまーす』

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